【君はいつだって無力な第三者】
1の神が生まれる日。君は僕を慰め、共に死を選び。
7の神が生まれる日。君は僕を憐れみ、見殺しに…。
15の神が生まれる日。君は一人、ただ普通に死んだ。
唯一全てを知った少年が、僕の想像を超えた日。
新しい神が生まれ、また誰かが死を迎える。

原作 花粉病g
あの踏切で君を見た
リーン リーン リーン リーン…
あの踏切で、君を見た。もう二度と逢えないはずの愛しい人。立ち止まったままの彼を、風が優しく撫でるようにそよぎ抜けていった。
「そんな気がしているだけ」
青年は一言呟くが、声は小さく。激しく流れ交わる人の波に消される。
リーン リーン リーン リーン…
一向に踏み出されない一歩をよそに、掻き分けるように遮断機が降りる。
そんなことはどうだっていい。誰が死のうと生きようと全く、どうだっていい。今日は急いで帰らなくては。
「家で暖かいスープを作って待ってるから」
彼の脳内は、春のあの日に置かれたまま。過ぎた季節の桜木にまだ花を見ているような、そんな朦朧とした意識で歩みを進める。
リーン リーン リーン リーン…
声が聞こえる。あの子の優しい声、聞き慣れた列車の音。
必死に何かを叫ぶ大勢の声、聞き慣れた列車の…あれ。
ふと意識にはじき出されたように振り向く。
「ココは踏切の外じゃない…?」
3度目の瞬きで自分は電車に向かい合うようにして佇んでいた。空気が圧縮される吸い込まれるような感覚が、不思議と気持ちいい。
ああ、ただ死ぬんだなって言うだけの呆気なさに少し笑った。
《なんで君はそうやって死ぬ瞬間に笑うんだい?》
さっきまで何もなかった電車との僅かな空間に、無表情の少年は立っていた。人にとても良く似た、人とは明らかに違う何か。
そんな無機質な少年がついた溜め息は何処と無く、人間の自分より遥かに自然で人間臭いと思ってしまう。
「本当に死ぬの、好きだね」
まさか。そもそも意識なんてほぼなかったようなもので、故意に身を投げたわけじゃない。帰らなくてはならない理由だってあった。大切なことだけは一度も忘れたことが無いのだから。でも、あの日死んだ女の子は誰だろう。
「死ぬのは好きじゃない。怖くはない、ただ嫌いだ」
死んだら二度と確認することは出来ないから。君と大切な何の約束をしたのか。君は何故いなくなったのか。何処に行ったんだ。早く帰ってこいよ若奈…。
「アリュセ(:me)が君を理解してみるまでに、君は何百回
死んでみるつもりなんだい…?」
少年は自身をアリュセと呼んでいた。
「君は結局、誰?なぜ生き続ける限り、死に続ける?もともと死んでいるんだろうか?もしくはそもそも生きていたことが無いんじゃないのか?なぜ生きてみたいと思わないんだ?なぜひたすらに望まずに失うことを選ぶ?」
彼なりの正論なのか、哲学を持ち出しているのかよく分からないが、アリュセは真っ直ぐ俺を指差して、こう続けた。
「橘 郁斗(タチバナ イクト)は不死ではない」
何を言っているんだ?俺はまだ死んでないじゃないか。人間なんだからいつか死ぬ。そんなこと誰だって知っているのに、何故彼は断言するのだろう。
いや、今までの人生は既に死んでいる様なものだったのかもしれない。誰から生まれて、何処に住んでいて、何を食べていたのかの記憶も無い。
何か正気じゃいられない事が起こってこうなってしまったならば、随分と薄情で自己中心的な人間だったんだなと思うよ。
右にも左にも俺は普通の人間なのだから。誰しも病むのは当たり前、痛いのは自分だけじゃないのだから。
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